スペシャルコラム
(音楽評論家 安倍寧先生より)
先だって上演した『ジャズ・ア・ラ・フランセーズ』について、音楽評論家の安倍寧先生より、ご感想をいただきました。堀内元は長年、安倍先生と親交させていただいており、『CATS』ブロードウェイ公演、ウエストエンド公演に堀内が出演した際にもご覧いただいております。
もともと私信ではありますが、先生にお許しをいただきましたので、堀内をご支援いただいている皆様方とシェアしたいと思い、ここに再録いたします。ぜひご一読ください。
優雅なる躍動感、『ジャズ・ア・ラ・フランセーズ』を見て
堀内元様
公演、大成功おめでとうございます。私も大いにエンジョイしました。日頃、セントルイス・バレエ団芸術監督としてどのような創作活動をされているのか、皆目、見当がつかずにいたので、その旺盛な創作力に改めて心揺さぶられました。バレエの伝統をきっちり踏まえながら、今の時代もちゃんと見据えている。そして、どの作品にもバレエならではの躍動感がみなぎっている。さすがです。
今、私は思わず躍動感という言葉を使ってしまいましたが、堀内さんの舞台にあふれる特色は、もう少し突っ込んで表現するなら〈優雅な躍動感〉ですよね。一見矛盾しているような優雅さと躍動感が巧みに融合しています。全演目に通底するのは、この優雅な躍動感です。
特に『ジャズ・ア・ラ・フランセーズ』は見応えたっぷりの大作、力作、そして意欲作でした。そもそもジャズ・ピアノ・トリオとのコラボという設定からしてとてもスリリングだし、おしゃれなセンスに満ちあふれています。一寸先が見えないジャズの演奏とバレエの確固たる技法とが、奇跡的?にピッタリと噛み合っていました。
ジャズをベースにしながら、『ア・ラ・フランセーズ』というタイトルが憎いですね。そもそも作曲者クロード・ボーリングの命名だそうですが、フランス人にはこの人のようなジャズ好きがいるんです。モダン・ジャズの粋とフランス人のおしゃれ感覚はどこかで共鳴し合うのかもしれません。
私はこの作品を見ながら第二次世界大戦後のパリ、特にサン・ジェルマン・デ・プレ界隈を連想せずにいられませんでした。あの当時のあの街はジャン・ポール・サルトルやジュリエット・グレコで有名ですが、ジャズがあふれていたと聞いています。
ふと思ったのですが、堀内さんの作品にフランス、パリが影のようにちらほら登場するのはジョージ・バランシンの目に見えない影響なのでは〜。どこかでバレエ・リュス、バランシンを無意識のうちに意識している?バランシンは何かとフランスと縁があったようですから。
もちろん『バランチヴァーゼ』『ル・サンティモン』にも、バランシンの血が躍動しています。改めてバランシン〜堀内元の系譜に思いを馳せました。
『ジャズ・ア・ラ・フランセーズ』が元さんの代表作として世界各地で上演されることを願ってやみません。
そう、それから元さんのダンスです。若々しく揺ぎのない技倆、年齢とともに身に備わった風格、見応えがありました。目が離せませんでした。
最後にもうひとつ、堀内さんの根拠地セント・ルイスのことで。セント・ルイスといえば「セント・ルイス・ブルース」ですよね。この名曲をモチーフにしたバレエ作品ってあるのでしょうか。是非、元さんに作っていただきたい。ルイ・アームストロングのトランペットとヴォーカルをフィーチャーしたヴァージョンを聞かれたことがありますか。現地で聞かれると、その味わいは格別だと思います。
一日も早くコロナが収束し、お目にかかれる日の来ることを願っております。
ではお元気で〜。
安倍寧
あべやすし
音楽評論家。ショービジネス、内外ポピュラー音楽に深く係わる。1965年から、ブロードウェイ、ロンドンのウェスト・エンドで多くのミュージカルを観続けている。日本レコード大賞実行委員、審査委員、劇団四季取締役、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問などを務めた。著書に「ショウ・ビジネスに恋して」など多数。