桑原あいスペシャルインタビュー

インタビュアー:森菜穂美

「BALLET FUTURE」は、踊りと演奏のセッション 
本当の意味でのバレエとの共演です

 
『堀内元 BALLET FUTURE 2022』に出演するジャズピアニストの桑原あい。昨年大阪で開催され、ジャズ演奏とバレエのスリリングで熱い共演として大好評を博した『堀内元 BALLET FUTURE 2021』に続いての出演となる。すでに10枚のアルバムをリリースし、テレビ報道番組のオープニング曲を作曲/演奏し、国内外でライブ活動を行って人気・実力とも若手No.1と称される彼女。子どもの時からバレエと縁があり、バレエダンサーとの共演に大きな喜びを感じているとのこと。今回の公演にかける想いと、これまでのバレエとのつながりについて、語っていただいた。
 

 
バレエダンサーから伝わる音や振動が私を高揚させてくれました
 
 
Q:昨年は、堀内元さんのBALLET FUTUREに大阪で出演されて、今年東京で2回目になりますが、バレエダンサーの方と一緒に演奏されて、いかがでしたか。

A:バレエダンサーが目の前にいて、一緒に演奏するという経験は初めてでした。熱量とか、肉体のすごさとか、バレエを前からしか見たことがなかったので、後ろからくる温風ではないですが、その感じがすごくて、それをたまらないなと思いながら演ってました。
着地した時のポンという音、バレエシューズ以外では聞けない独特の音は、他の音では表せないような、その音と振動がこの同じ舞台から何回も伝わってきます。それがすごく面白かったし、私を高揚させてくれました。

Q:昨年の舞台では、インプロビゼーション(即興)の演奏もありましたか?

A:ありました。もちろんダンスに合わせてですし、クロード・ボリングさんの譜面はもともと全部記譜なので、譜読みもちゃんとしました。ですがアドリブの部分は、自分のアプローチに変えて、音楽を壊さない程度にインプロビゼーションを入れて楽しんでいました。ダンサーに触発されましたね。確実に。

Q:そういったグルーヴ感は映像からも伝わってきましたので、生で見たらきっとこれはすごいのだろうなと思いました。

A:普段自分が感じることができないグルーヴ感をダンサーは持っているので、それが融合した時に、すごく面白かったですね。相乗効果ってこうなのだなと思いました。

Q:もともと歌手の方とか、俳優の方とか、色々なアーティストの方と共演されていると思いますが、バレエとの共演は今までありましたか?

A:コンテンポラリーダンスとか、ソロとか、私もアドリブをして、ダンサーもアドリブをしてといった経験は、海外にいた時にやったことはあります。でも、振りの決まっているバレエ、しかも群舞がある作品は初めてでしたので、血が騒ぎましたね。



「シンデレラ」とバレエシューズが作ってくれたバレエとのつながり
 
 
Q:小さい時からバレエを見るのはお好きでしたか。

A:私は小さい時、エレクトーンをやっていて、エレクトーンはベースを弾くのですが、私は細かい足の動きをいっぱいしていたので、スニーカーでは、スニーカーがついてこなくて、色々考えた結果、バレエシューズが一番いいということになりました。黒くて皮でできたバレエシューズを6年間くらい履いてエレクトーンを弾いていました。渋谷のチャコットさんにバレエシューズをしょっちゅう買いに行って、そこでバレリーナの映像や衣裳をみて、知らず知らずのうちに憧れを抱くようになっていました。何だろう?この世界はみたいな。自分は絶対に着れないドレスとか、動き方とかも、これは人間なのか?と。お店でバレリーナさんですか?と店員さんに聞かれると、はいと嘘をついていました。それが楽しかったですね。それを5、6年続けていたので、バレエに対しての意識がずっとありました。
小学5年生の時に、プロコフィエフの『シンデレラ』の音楽にまず出会い、CDを聞いて、なんて素敵な音楽だ!と、その音楽にインスパイアされまくって、当時、「週末お姫様は馬車に乗って」という曲を書きました。
その年のクリスマスに、サンタさんから、『シンデレラ』のバレエ来日公演のチケットを、姉妹3人と母親分、プレゼントしてもらい、ラッキー!ととても喜んだ思い出があります。今、思えば、父親がとても頑張ってくれたのだと思いますが、本物を見ろという父親のメッセージだったのだと思います。それを見た時の記憶はすごく鮮明にあります。

Q:バレエを習ったことはありましたか?
 
A:ずっとバレエに対して親近感を感じていました。洗足学園高校に入学した時私はジャズピアノ科でしたが、好きな副科を選べたので、副科にバレエを専攻しました。周りについていけず、一人で永遠にバーレッスンをしていましたが、楽しかったです。以前からの思い出もあるので、少しでも近づきたい、という思いもあったのだと思います。1年間バレエをやってみて、全然センスはなかったのですが、楽しかったです。
 
Q:そういう流れがあって、去年、バレエダンサーの方と共演することになったわけですからね。色々なジャンルの方からオファーがあると思いますが、バレエの方からお誘いを受けて、どう感じられましたか。
 
A:やったー!と思いました。えーとか、バレエ大丈夫かー?とかは一切なく、やはり縁があったのだなと思いました。嬉しかったです。やるわーとすぐ返事をしました。それから、動画も色々拝見して、すごいわー、やりたいと思いました。
 
Q:なかなか普段バレエダンサーは、あまりジャズで踊ることはないので、ダンサーも大変だったと思いますが、ダンサーさんの方も楽しんでいる感じはありましたか?

A:ダンサーのみなさんが、リハーサル中から演奏を色々な所から見てくれていて、すごく演奏側に興味を持ってくれていることにまずは、感動しました。踊りだけのことを考える方もいっぱいいる中で、みなさんが、覗き込むようにみてくれて、びっくりしました。そういう関係性がとても嬉しかったですね。私もすごく見たくなりますし、グルーヴ感も違うものを持っているので、面白いですよね。

Q:普段バレエで生演奏の場合、ピットに入っていることが多いので、距離もありますが、真後ろに演奏している方がいると、音の伝わり方も違うのでしょうね。踊る方にしても、その場で音が直接、身体に伝わってくるのでしょうね。

A:私たちにも、みなさんの温風や熱量がきて、すごかったです。



ジャズピアニストですが、結局音楽が好きなのです

Q:堀内さんはもともとニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)で活躍されていて、ジャズのミュージシャンと共演されたいということで、今回の企画になったと思います。何か共通点みたいなものは感じましたか? 

 

A:言い方がすごく難しいですが、ジャズはジャズで、アメリカではソウルミュージックになりますが、音楽が入り乱れるグルーヴ感やリズム感があり、バレエはバレエで、そういうリズム感やグルーヴ感があって、そのバレエはクラシックに見られがちですが、実際、踊っている彼らをみていると、ジャンルとか関係ないな、とすごく思いました。ジャズもジャズって言っていますけれど、そこに縛られているんじゃないよ、と私は思います。 

 

Q:最新のあいさんのCDを聞いても、自由ですよね。すごく楽しいし、すごく幅広いですし、すごく豊かなものを感じます。色々なものを包摂している感じがあります。 

 

A:私もそういうアルバムをつくる位なので、私はジャズピニストであるとは思いますが、そこに固執をするのは違うなという思いがあり、だから小さい頃から、ミュージカルの伴奏をしたり、舞台に携わったり、クラシックピアノもずっとやっていました。一番惹かれたのがジャズだったから、ジャズピアニストをやっているだけで、結局音楽が好きなのです。 

 踊りと音楽という括りの中でやっているのだとしたら、皆さんもきっと、バレエというルールみたいなものを使って何かを伝えているのだと思います。私もジャズのルールを使って伝えていますが、心から出るものというのは、変わりがないと思います。 

 

Q:あいさんは、どうやってミュージシャンになられたのでしょうか。 

 

A:姉が二人おり、その影響で4歳からエレクトーンを始めました。小4の時に、アンソニー・ジャクソンというベーシストがベースを弾いている、リー・リトナーというギタリストの「キャプテン・フィンガーズ」という有名な曲があり、それを弾いて全国大会を目指そうと先生に言われ、かっこいい!と心を奪われて、そこからジャズ・フュージョンにのめりこんでいきました。 

小5の時に、「ウエスト・サイド・ストーリー」の楽曲をオスカー・ピーターソンが、ジャズトリオでやっているのがあって、それを聴いた時に、私、これやりたい!と思って、その時から将来はジャズピアニストになろうと思いました。 

なかなかピアノに転向するきっかけがなかったのですが、小6の時のコンクールで日本一をいただいた後、コンクールに疲れてしまいました。もうやめようと思った時に小椋佳さんの「アルゴ」という子供ミュージカルの音楽を全部担うというオファーをいただき、それを二番目の姉と引き受けて、中1、中2の2年間担当したのです。初めてミュージカルで20人くらいの仲間たちと一緒に作りあげる行為に感動して、コンクールなどでなくて、人に伝わる何かをしたいと思った時に、ピアノに完全に転向して、ちゃんと音楽の道を究めようと思いました。 

中2の途中からクラシックピアノをがむしゃらに練習して高校でジャズ科のある洗足学園高校に入りました。ジャズピアノとクラシックピアノを並行して理論なども勉強していく中で、色々悩んだ後に、大学には進学せずに現地に行くことにしました。ドイツにクラシックピアノを学びに行くのと、ちょうどディナーショーのピアニストを募集していたので、ディナーショーのピアニストをしながら半年間ドイツでクラシックピアノの練習をして。日本に戻ってきて、作曲などをしながら、路上ライブなどをしていたら、今のマネージャーさんが誘ってくれたというのが流れです。 

 

Q:これから、こんなことをやってみたいとか、ありますか。 

 

A:私がここ3年くらいずっと言っているのは、映画音楽です。これから何年かの間で、絶対に叶えようと思っています。マイルス・ディヴィスが映画音楽を作った時は、全部映像に合わせて即興で演奏したと聞きますし、もちろん、「ウエスト・サイド・ストーリー」のようにたくさん書いて、録音するのもやりたいです。どんな方法でもいいですから、映画音楽を作りたいと思っています。舞台もすごくやりたいですね。バレエ音楽にもぜひ挑戦したいです。 

 


私の人生を変えた3人の偉大なミュージシャン 

 Q:人生を変えるような出会いにはどんなものがありましたか?
 
A:私の音楽人生においては三人います。そのうちの一人は、クインシー・ジョーンズでした。19歳から24歳くらいまでの5、6年間でしたが、苦しかったのです。音業業界で登りつめるにはどうすればいいのだろうと思ったときに日常を楽しんでいてはいけないと思いとても変にストイックになってしまいました。作品を作ろうと思った時に、3週間くらい誰にも会わないで、カーテンも締め切って譜面と没頭する曲の作り方をして自分を追い込んでいました。1年くらいスランプに陥っている時にスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルでコンペティションがあり、2日目にオリジナル曲を弾かなければいけなかったのですが、クインシーが、私の出番の10分前くらいに来てくれました。その時、とにかく今のお前の音を弾いてこい、大丈夫だから、恐れないで、今の君の音を弾いてきなさいと言われました。その時、即興をしようと思い、結局、時間をオーバーして失格になったのですが、クインシーは、君の音はゴージャスだったよと話をしてくれ、君に今、足りないものは、生きていくことだけだから、と言ってくれました。クインシーが帰って行く後ろ姿が脳裏に焼き付いていて、私、今のこの気持ちを曲にしないで、ピアニスト、音楽家っていえるのかと思って、帰りの飛行機の中でメロディを書いたのが、「ザ・バック」という曲です。
その曲を後にスティーヴ・ガッドとウィル・リーとニューヨークで演奏することになりますが、この三人との出会いが、音楽家として幸せであることの大切さを教えてくれました。
 
Q:すごく素敵なお話ですね。
 
A:本当に素晴らしい人たちがいるので、ああいう大人になりたいな、人間になりたいな、と思いますね。結局も音楽も人なのでね、人として、生きようと思います。
 
Q:今回はじめてジャズに触れられるお客様もいると思うのですが、こういう所を楽しんで欲しいとかありますか?
 
A:同じステージに、演奏者とダンサーがいるのはなかなかない機会だと思います。両方とも結果的に1つになりますが、楽しんでいるものがある意味2つあるわけで、ジャンルの融合というよりは、むしろ、ぶつかり合うという感覚なんですよね、「セッション」。その言い方がいいかも知れません。
お互いが、セッションして、ぶつかりあう感じがあるので、演奏にも注目して欲しいというのとも違い、1つの作品としてジャズがこうで、バレエがこうでではなく、そのぶつかっているさまを見て欲しい。ジャズしか聴かない人や私の普段のお客様にもぜひ来て欲しいと思います。
 
踊りと演奏のセッションを体験しにいらしてください!
 
Q:あいさんのコンサートで、ご自身のお客さまにこの公演をお誘いするとしたら、どんな言葉をかけられますか。 
 
A:やはり、踊りと演奏のセッション。舞台の中の音楽って、裏の人と思われがちですが、この公演は、私は影武者じゃないというか、本当の意味での共演、セッションです。バレエと一緒にやりますではなくて、バレエとセッションします!と言いますね。 
 
堀内元、加治屋百合子など内外で活躍するトップダンサーと、音楽の申し子桑原あいとのスリリングなセッション、まだ観たことも聴いたこともないような興奮が待っている『堀内元 BALLET FUTURE 2022』ぜひお楽しみに。 


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